阿讃広域農道は東部・山麓・中央・西部とそれぞれの区間に分かれている。 普段徳島市内から、よく練習で走るのは東部と山麓。 板野から市場までのアップダウンが連続するお馴染みのコースだ。 しかし、中央・西部まで足を延ばすことは少ない。 中央・西部は同じ阿讃広域農道でも、東部・山麓のような道ではない。 板野から阿讃の麓を走っていた広域農道は脇町の国道193号線を境に中腹まで駆け上がっていく山岳コースとなる。 コース紹介としては、貞光をスタートし国道438号線から三頭トンネル上部より阿讃中央広域農道に入り、山腹をトラバースした後、大滝山を経て国道193号に下りてくるコースとした。
貞光道の駅の向かい、吉野川堤防下の駐車場にクルマを停めてスタートする。 スタート直後、美馬橋を渡って北岸へ移動、国道438号を走る。 阿讃の山並みに向かうと道は緩やかな勾配で登っていく。 徳島自動車道美馬インターチェンジ前を通過すると、本格的な登りとなる。 美馬インターチェンジ前から、三頭トンネルの手前、野田ノ井トンネルの入口までは距離約6km、高低差370mで平均勾配6.2%。 最も急勾配の部分で10%前後。 登りとしては特に厳しいわけではないが、南斜面のために陽射を遮るものがなく、盛夏には過酷な状況になることもある。 野田ノ井トンネル手前の広場でいったん休憩。 ここは標高約470mで、自販機のほか蕎麦屋もあり食事を摂ることができる。 野田ノ井トンネルの手前からは左の旧道へと入る。 登りはまだ続き、ここから1.8km、標高590mの地点から阿讃中央広域農道へと入っていく。 阿讃中央広域農道へ入らず、そのまま旧道を進むと竜王山※や阿讃西部広域農道へと至る。
このあたりは緩やかな斜面に農地が広がり民家が散在している。 現代のようなクルマ社会になる以前、阿讃の山間部に住む人々は山を越えて讃岐と交流してきた。 寒風越や山頭越はその代表的なルートである。 ここを昭和30年代まで牛を連れて越えていった。 借耕牛である。 かりこうしと読むが漢字はおそらく意味からの当て字。 畑作が中心で水田に乏しい中腹の集落では米は貴重品であった。 人々は香川県側の稲作農家へ農耕用の牛を貸し出し、代償としてお米を得ていた。 一方、讃岐では草地に乏しく、牛を飼えないため借耕牛は貴重な労働力であった。 もちつもたれつの関係は山脈を越えた家どうしの結びつきに発展した。 阿波から讃岐へと女性たちが嫁いでいった。 そのような背景から「讃岐男に阿波女」という言葉が生まれた。 昭和40年代以降、稲作は機械化が進み借耕牛は消えていった。 利用することのなくなった峠道はやがてさびれていった。
登り一辺倒だった道は阿讃中央広域農道に入ると緩やかなアップダウンを繰り返すトラバースルートになる。 地形の変化に合わせて曲がりくねり、山腹に点在する集落を縫うように延びている。 幅員は決して広くないが、自転車なら問題ない。 視界が開けた場所からは吉野川中流域を見下ろすことができる。 さらにその向こうには剣山系の山々を遠望できる。 税金の無駄使いとしてヤリ玉に挙げられる広域農道であるが、この眺めは絶景といっていい。 展望を求めて香川県側からも時折ローディが上がってきている。 ちなみに、徳島県では阿讃山脈と呼んでいるが、香川県では讃岐山脈と呼んでいる。 え、何でなんだ?と思うかもしれないが、実は正式名称は讃岐山脈である。 しかし、北側斜面の香川県側よりも南側斜面の徳島県側の方が山の上の方まで民家が点在していて、 阿讃独特の景観を生み出している。
トラバースルートを7kmほど走ると県道7号線に合流する。そのまま進むと1kmほどで相栗峠に至る。 広域農道の入口は峠の200mほど手前にあり、体力的に余裕がない場合は広域農道に進路を取ろう。 しかし、まだ余裕があるのなら、相栗峠をパスした後、香川県側から大滝山※を目指すといいだろ う。 相栗峠から4kmほど下ったところで右折し、県道153号へ。 三桁の県道に入ると道路幅は再び狭くなる。 クルマなら離合困難な箇所があるような道だが、夏場には結構マイカーが通る。 奥に県民いこいの森というレジャー施設があるからだ。 県民いこいの森を過ぎたら再び登りが始まる。 ここからは大滝山までは距離5.5km、標高差430mのヒルクライム。 北側斜面で木々に覆われている箇所が多く、こちらは夏には涼しい道である。 視界が広がると茶畑が現れる。 このあたりで採れるお茶は塩江名産として有名らしい。 茶畑を抜けると再び木々に包まれた道。 上部になっても勾配は結構きつい。 大滝山は標高946m。 峠は頂上直下の標高920m。 本コース中最高地点となる。 峠は県境で、横には大滝寺がある。
大滝寺を通過すると徳島県に戻り、道は下りに転じる。 比較的緩やかな勾配を徐々に下っていく。 こちら側の山肌にも人々の暮らしがある。 斜面に広がる畠と、点在する民家。 不思議に懐かしさを覚える風景だ。
長い下りが終わると、夏子ダムの少し下流の国道193号に出る。 あとは曽江谷川沿いに走り、穴吹橋を渡って国道192号に出る。 スタートして、穴吹までの所要時間は休憩も含めて4〜5時間前後。 穴吹からスタート地点の貞光まではゆっくり走っても30分もあれば戻る。 総距離約70km。
本コースは徳島市内から日帰りも可能。総距離150km弱。所要時間は8〜9時間である。
※竜王山 阿讃山脈の最高峰。標高1060m。近くには以前MTBエンデューロが開催された美馬モーターランドがある。
※大滝山 阿讃山脈第3番目の高峰。標高946m。山頂直下には大滝寺があり、登山者が多い。